RPGゲームの世界にはMP(マジックポイント)というステータスが存在する。
MPを消費することで、魔法を唱えたり必殺技を繰り出すことができる。
実は、現実世界にもMPなるものが存在している。
それは『意志力』。
MPは使うと減っていくし、食べ物を食べたり睡眠をとったりすると回復する。
同様に、意志力には上限があり、使用すると減っていくし、食事や睡眠で回復できる。
このように、意志力は消耗品である、という考え方を自我消耗という。
今回は、自我消耗の具体的な事例を紹介していこうと思う。
映画鑑賞とチョコレート
被験者のAとBとCには、映画館で映画を見てもらう。
被験者の近くには、チョコレートの入った皿が置いてある。
Aの被験者には1粒も食べないよう指示し、
Bの被験者には映画を観ているときは食べてはいけないが、終わったら食べられると告げ、
Cには被験者には好きなだけ食べてもらった。
映画が終わったあとに、チョコレートを食べるのを横目で見ていたAとBを呼んでこう告げる。
「これで実験は終わりです。好きなだけチョコを食べていってください」と告げる。
これは、「映画が終わったらチョコレートを食べていい」といわれていたBにとっては、
延期していた楽しみを実行する 絶好の機会だ。
だが彼らが食べた量は、Aよりはるかに少なかった。
ダイエットが困難な理由は、食べることを拒絶すればするほど食べ物にとらわれていくことだ。
これは無意識の作用なので、意識で抑えつけようとしてもいずれ意志力が枯渇してしまう。
だがこの実験は、食べることを拒絶する のではなく、
「楽しみはあとにとっておこう」と考えた方が、食べる量を減らせることを示している。
「いつかは食べられる」と考えることで、
「食べないと死んでしまう」というアラームを鳴らす必要がないと伝えることができるのだ。
バウマイスターのラディッシュ実験
アメリカの心理学者ロイ・バウマイスターは「意志力」を「筋肉に似たもの」だという。
この奇妙な比喩を、彼は次のような巧妙な実験で証明した。
食事を抜くように指示された学生たちが実験室に入ると、
テーブルの上にはおいしそうなクッキーと、ラディッシュ(二十日大根)の皿が置かれていた。
この実験には、3つのグループが存在する。
①クッキーだけを食べるグループ
②生のラディッシュ(大根)だけを食べるグループ
③何も知らない空腹のグループ
他のものは食べてはいけないと念を押し、
そのうえで研究者はわざと席を外して隠し窓から様子を窺った。
ラディッシュだけを食べるグループはものほしげにクッキーを見つめたり、
匂いをかいだりしたものの、全員が盗み食いの誘惑に耐えた。
その後、3つのグループの学生たちは知能検査の名目で図形パズルを解くように指示された。
しかしこれは、忍耐力を測る目的であり、解けないように作られていた。
クッキーを食べたグループと、たんに空腹だった空腹だったグループは、
平均して 20分間解けないパズルに取り組んだ。
ところがクッキーを横目にラディッシュしか食べられなかった学生たちは、
たった8分でパズルを解くのを諦めてしまった。
なぜこんな差がついたのか。
バウマイスターはこれを、クッキーの誘惑に抗おうとした努力のせいで、
パズルに取り組むエネルギーが減ってしまったからだと考えた。
バウマイスターのハンドグリップ実験
被験者の学生たちは、ハンドグリップ(握力を鍛える器具)を握っていられる時間を計ったあと、
ビデオルームに案内された。
そこでは、感動的なドキュメンタリー映画が上映された。
誰もが涙なしでは見られない場面だが、ここでも学生は3つのグループに分けられた。
①ふつうに鑑賞するグループ
②大袈裟に悲しみを表現するよう指示されたグループ
③いっさい感情を表わすことを禁じられたグループ
次いで被験者たちは、もういちどハンドグリップを握るよう求められた。
ふつうに映画を観た学生たちは、その前後で握力検査の値にちがいはなかった。
ところが残りの2つのグループでは、
映画のあとでグリップを握っていられる時間が大幅に短くなった。
映画の実験では、感情を抑えようとしたグループと、
無理矢理涙を流そうとしたグループの握力が大きく低下した。
意志のちからで無意識に逆らおうとすると、筋力までが消耗するのだ。
こうしたさまざまな実験から、バウマイスターは「意志力は消耗品である」と主張したのだ。
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