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【コラムNo.10】ミルグラム実験 ~優しい人すらも権威の前では非道になってしまう~

たとえ善人でも権威に命令されると、悪いことをしてしまうのか?
今回は、イェール大学の心理学者スタンレー・ミルグラムによって発表された、
「ミルグラム実験(アイヒマン実験)」を紹介しようと思う。

目次

ミルグラム実験

ミルグラムは、実験室に二人の参加者を案内した。
しかし、このうちの一人はサクラ(ミルグラムの協力者)である。
ふたりはそこでくじによって「教師役」と「生徒役」に振り分けらるが、
くじには細工がしてあり、通常の参加者は必ず教師役に選ばれるようになっている。

次に参加者に、

これは人類の進歩のために非常に意義のある実験である
と説明した上で、

「これから簡単なテストを生徒役に出題します」
「もしもそのテストに生徒役が間違えたら…」
あなたは手元の装置を使って、生徒役に電気を流してください
と告げる。

装置には15ボルトから450ボルトまでのメモリが設けられており、
数値の隣には

15ボルト=軽い衝撃
75ボルト=中度の衝撃
135ボルト=強い衝撃
375ボルト = 危険
435ボルト以上 =XXX

といった、ショックの程度を示す簡単な説明が添えてある。

危険」や「XXX」と記すことで、明らかにその数値が相手の生命を
脅かすレベルであることを示唆する。

こうして実験が始まると、サクラの生徒はわざとテストで不正解を出す。
その度にミルグラムは、教師役の参加者に、
「より高い電気ショックを与えてください」と指示する。

数値が上がるにつれて生徒役の悲鳴はどんどん大きくなり、
180ボルトになると「痛くてたまらない!」と絶叫し、
300ボルトになると壁を叩いて「もう止めてくれ!」と悲痛な声を上げ、
実験の中止を求める。

しかし、どれだけ生徒役が苦痛を訴えても、ミルグラムは教師役に
電気ショックのスイッチを押すことを求め続ける。
もちろん実際には電流は流れておらず、
生徒役は苦しんでいる演技をしているだけである。

もし、途中で教師役の参加者が電気ショックを与えるをためらったり拒否した場合、
研究者は「続行してください」と告げて、スイッチを押すことを促す。
それでも参加者が拒否した場合は、

「責任は我々がとります」
「この実験は、あなたに続行していただかなくてはなりません」
「あなたに続行していただくことが絶対に必要です」
「他の選択肢はありません、あなたは続けるべきです」

と声をかけ、あくまで実験の続行を強く指示する。
それでもなお、参加者がスイッチを押すことを拒否した場合に
実験を終了させる。

この実験の狙いは、科学者(ミルグラム)という権威に命令されると、
参加者たちは危険な数値まで電気ショックを与え続けるのか
を探るというものだった。

ミルグラムは実験を行なうにあたって、
イェール大学の教授や学生たちに実験結果を予想するアンケートを行なったが、
多くの人は最大の電圧ショックを与える者は1000人に1人程度で、
大多数の参加者は150ボルト程度で実験を拒否するだろうとの予想を立てた。

ところが実際の実験結果は、
なんと参加者40人中26人が最大電圧である450ボルトまでスイッチを押し続けた。
もちろん、参加者たちは平然とスイッチを押したわけではなく、
全員が途中でスイッチを押すのをためらったり、実験を止めたいと申し出たりした。
しかし、実験を続けるようにという研究者の強い進言と、
責任は一切負わなくていい」という言葉により、参加者たちはその後も実験を継続。
誰一人「危険」と但し書きがされた300ボルト未満で実験を中止した人はいなかった。

なぜ人は権威に服従してしまうのか

なぜ、こんな非人道的な実験に人間は従ってしまうのか。
その理由についてミルグラムは、
「参加者たちは権威者の代理状態に陥っていた」と指摘している。

代理状態とは、命令を発する権威者に対しての責任は感じる一方で、
命じられた行為については、責任を感じなくなる状態のこと。
今回の実験で言えば、参加者に電気ショックを与えるよう命令しているのは
あくまでミルグラムであって、”自分はただそれに従ってボタンを押しているに過ぎない”
と考えるようになる。
その結果、自身の行為への責任感が薄れ、最後までボタンを押し続けてしまう。

また、「悪」と「善」は、状況によって置き換わることも
要因のひとつとして挙げられてる。

たとえば、「国のため」という大義によって戦争が正化されたり、
「会社のため」「社員の生活のため」という言葉で不正の隠蔽が黙認されたり。
人は一般的には「悪」とされる行為でも、その背景により大きな目的があれば、
それは「正しい」と容認してしまいやすくなる。

今回の実験でも、ミルグラムは最初に「人類の進歩のための実験」と告げており、
これが電気ショックを与えることへの正当性に結び付けられた可能性がある。

なお、この実験は別名「アイヒマン実験」とも呼ばれている。
アドルフ・アイヒマンは、ナチス・ドイツでユダヤ人を収容所に輸送する責任者であった。
戦後、アイヒマンが逮捕されたとき、多くの人は彼を「冷酷無比な殺人鬼」だと考えていた。

ところが、裁判が進む中で明らかとなった彼の素顔は、
ごく平凡な普通の役人という印象でしかなかった。

ミルグラムは、「普通の市民が、なぜ権威に服従して残虐な行為を行なったのか」
を調べる目的でこの実験を行ない、その心理を明らかにした。
それはつまり、私たちは誰もがアイヒマンになる可能性があるということを示唆しているのかもしれない。

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この記事を書いた人

iosエンジニア
読書、散歩、サッカーが好きです。

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