なんとなくこれは避けたほうがいい…!!
なんとなくこの波にはのったほうがいい…!!
根拠のない自分の中にあるセンサーを、時として頼りにしたい瞬間がある。
そのセンサーが実は、非科学的な「神のお告げ」のようなものではなく、
人間が「無意識のなかで導き出した計算」によるものだとすれば、
わたしたちは”なんとなくの直感“を、案外信じてみてもいいのかもしれない。
アイオワ・ギャンブリング課題
課題依存症の人は目先の報酬を無視できないといわれているが、
それを示す実験として、アイオワ・ギャンブリング課題というものがある。
テーブルには、ABCDの4組のカードの山が裏返しに置かれている。
あなたは好きな組を選び、カードを取るたびに報酬を得たり罰金を支払ったりする。
・Aは報酬が100ドル、罰金が10回につき1250ドル。
・Bは報酬が100ドル、罰金が5回につき250ドル。
・Cは報酬が50ドル、罰金が10回につき250ドル。
・Dは報酬が50ドル、罰金が5回につき50ドル。
これらの選択肢のうち、どの組の期待値が高いかは簡単な計算でわかる。
A組とB組は10回で1000ドルの報酬を得るが、
罰金額はいずれも 1250ドルなので、損益はマイナス 250ドル。
C組とD組の報酬額は 10回で 500ドルと少ないが、
罰金額はいずれも 250ドルなので、損益はプラス 250ドルだ。
このゲームを試行錯誤でやらせると、ほとんどのひとは無意識にA組とB組(悪い山)を避け、
C組とD組(良い山)のカードを引くようになる。
このとき、参加者の皮膚伝導反応(指先などのわずかな発汗)を計測すると、
A組やB組の山からカードを引こうかどうかと迷っているとき、皮膚伝導反応に顕著な増加が見られる。
これは緊張や警戒の合図で、脳がなんらかの方法で「この選択は間違っている」という信号を送っているのだ。
無意識は、優れたパターン認識能力 =直観をもっている。
わたしたちは意識的にトランプの良い山と悪い山のちがいに気づく前に、
無意識はA組とB組が危険であることに気づき、そのことを指先の発汗などで伝達する。
これが「いやな予感(第六感)」で、意識はそれによって、
理由もわからずにA組とB組の山を避けるようになる。
ところが一部のひとはこれを学習できず、いつまでもA組とB組のカードを引きつづけ、損をしてしまう。
彼らは目先の報酬の大きさにとらわれ、長期的な損得を無視してしまう。
しかし、彼らは平均より知能が低いというわけではない。
だとしたらこの傾向はどこからくるのだろうか。
脳の前頭前野に障害があると、良い山のカードを引こうと考えるとき、皮膚伝導反応の増加を示さない。
鼻梁の後ろに位置するこの小さな領域は、直観を生み出すのに関係していると考えられている。
脳に異常がなくても、依存症のグループはギャンブルはもちろん、アルコールやドラッグの依存症者も、
脳損傷患者ほどではないもののアイオワ・ギャンブリング課題の成績が悪い。
ギャンブル依存とドラッグ
ニュージーランド国内のおよそ 1000人の若者集団を対象に問題行動を調査した研究では、
・ドラッグ依存症者がアルコール依存である確率 = 通常の6倍
・アルコール依存症者がニコチン依存症者である確率 = 通常の4倍
・ギャンブル依存症者がアルコール、ドラッグ、ニコチンの依存症になる確率は通常の3倍
・ギャンブル依存症者のうち3分の2は薬物依存症
カジノでは喫煙が認められ、多量の酒が供され、ドラッグが入手しやすいということはあるだろうが、
それだけではこの顕著なちがいは説明できない。
ある種のひとたちは、たとえ頭でわかっていても、アルコール、ニコチン、ドラッグ、ギャンブルなど、
目の前に提示された報酬への欲望を抑制できないようなのだ。
アイオワ・ギャンブリング課題をやっているときの脳画像を調べると、
正常な被験者と、依存症などの衝動コントロール障害をもつ被験者とでは、
活性化する脳の部位が異なっていることがわかる。
ここで重要なのは、堅実性スコア(衝動を抑制できる度合いであり、自己コントロール力、自制心)である。
堅実性スコアが低い場合、報酬系に対して、右背外側前頭前皮質などの制御系ネットワークの活性化が弱い。
依存症というのは、もたらされる快感が大きいからではなく、
いったん味わった報酬への欲望を抑えられないことから生じる。
報酬系の制御を司るのが前頭葉で、ここを損傷するか、生得的に前頭葉の働きが弱いと、
ブレーキが壊れたり弱くなったりしてしまう。
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